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ゆらゆらとたゆたう

偽島のあれやこれをそれとかするブログです

   2024

0329
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   2010

0208
今日はお祭りだ!
何でも、島に居る探索者達が集い、民族衣装で身を包み、美味しいものを食べ尽くす。
そんなイベントがあるらしい。
そのような楽しげなイベントが開催されると聞いては、いてもたってもいられなくなり参加してしまうのは、人として当然のことである。
とはいえ、民族衣装なんて今から用意できるものでもない。
ああ、どうしよう。
悩みながらも、せめて見学だけでもと、足は会場へと向かっていた。

想像していたよりも見学者は多く、祭りは賑わっていた。
これなら、普通の服でも浮いてしまうことはなさそうだ。
途中、お肉屋さんで購入したメンチカツを囓りながら、人の集まりへ近づいて行く。
思っていたより人が多い……と、なると気になってくるのは彼女の挙動だ。
振り返ると、やはり、歩みが止まっている。
相変わらずの群衆恐怖症のようだ。

「あれ、どうしました? 大丈夫ですか?」

どうしたものかと考え込んでいると、そんな声を掛けられた。
大きい。
小走りでこちらへ近づいてきたのは、とても大きな青年だった(注.1)
青を基本とした色鮮やかな衣装と帽子を身に纏っている。お祭りの参加者だろうか。

「あ、それひょっとしてあのお肉屋さんで買いました? あそこ、美味しいですよねー……あ、えっと、こういうものです」

手の中にあるメンチカツを見て、花が咲いたような笑顔でそんなことを言い始める。
暢気な気質のようだ。
こちらの視線に何かを感じたのか、差し出される黒い手帳。
警察手帳だった。

「こういう、イベントに騒ぎはつきものなんで見回りをしてるんです!」

えっへん、と言った様子で腰に手を当て胸を張る。
何も民族衣装を着て見回りをしなくとも良いような気もしたが、きっと地域密着型なのだろう。

「えーと、これから向こうの方でパレードみたいなものが始まるけど……そっちの子は大丈夫?」

パレードとなればこれはもう、見に行くしかないのだが……彼女のはあまりあちらに近づきたくなさそうだ。
さてどうしよう?

   A.今日はもう帰ろう
ニア B.やっぱりお祭りを見ていこう

やはり、ここで引き返す事は出来ない。
とはいえ、やはり彼女の体調の方も心配であるからできるだけ人の少ない所を選んで移動しよう。
ついでに、どのくらいの人の群れまで大丈夫なのか確認もしておこう。

「そう、それじゃあ楽しんでいってね! あっ、でも無理はしちゃだめだよ?」

私の返事を聞いて、『大きなおまわりさん』は、めっ、と人差し指を顔の前に軽く突き出してくる。
笑顔と共に気を付けますという言葉を返しておく。
『大きなおまわりさん』の顔にまた花が咲く(注.2)

「? 何かあったかな?」

遠くざわめき声、群衆の方からだろうか。
それを聞きつけるやいなや(注.3)、『大きなおまわりさん』は声のした方へ駆け出す。
こちらへ手を振りながら。
小さい吐息と共に、笑みが漏れる。
とりあえず、手を振り返しておこう。
あの『大きなおまわりさん』に騒ぎが収められるのか少し不安な気もするが、まあ大丈夫なのだろう。
しかし、微かに漂うあの錆びた鉄のような香りは何だろう。



□昼の部

彼女が言うにはそれは【ミコシ】というものらしい。
金箔を施したあの奇妙な形状は、神殿を象っているとの事だ。
それを支える二本の棒を、何人もの人が肩に乗せ担ぎ上げている。
兎に角、お祭りの時はあれが練りまわるものらしい。
それが二基。
片方の【ミコシ】の上では、額に白い布を巻き、大きな団扇をもった黒い肌の少年が音頭をとっている。
袖の辺りに鱗のような模様が描かれた、グリーンに染まった衣装を羽織り、腰の辺りを布で締めていた。
もう一方の【ミコシ】には二人。
そのうち一人は、上半身はほぼ裸。頭には鳥の羽で作られた冠を。顔にはペインティングが施されている。
もう一人は、頭が通るように穴が開けられた毛織物とつばの広い帽子を被り、手にはシェイクすることで音のなる楽器を持っていた。そして、左右色の違う眼鏡を掛けていた。
……一人、顔見知りが居るような気がする(注.4)

「ソイヤ! ソイヤ! あー……なんで俺ら担がれてるんだろう。 衣装と調和してないっーか、全然関係ない気がするんだけど、どうだろう?」
「ウララァー! 気にすんな、気にすんな! 気にしたら負けだッ! そして、俺は勝つ! 楽しんだもの勝ちって言うしな」
「楽しんだもの勝ちか……うん、折角のお祭りだし俺もちょっとはアゲて行きますか。 そーれ、アミーゴ!」

楽器を空高く掲げ大きくシェイクした、その瞬間、【ミコシ】が衝撃に大きく揺れる。
もう一基の【ミコシ】がいつの間にか接近し、その胴体をぶつけてきたのだ(注.5)

「ギャラリーも居ることだし、期待には応えないとな。 ってことで、一勝負だ! にゃ~んにゃ~んにゃ~ん」

いつの間にか、【ミコシ】の上にいた少年が黒猫へと入れ替わっていた。
後ろ足二本で立っている。中々に器用な猫だ。

「喧嘩御輿か。 俺は売られた喧嘩は勝つ主義だぜ? よォし、一丁行くか!」

一方、『上半身ほぼ裸の青年』も吠え返す。
【ミコシ】に手を突かずに衝撃に耐えていた。
素晴らしい、バランス感覚とインナーマッスルをお持ちのようだ。
【ケンカミコシ】というものが始まるらしい。ギャラリーも盛り上がっている。
そして、『帽子と色眼鏡の青年』だが……地面と抱擁を交わしていた。

「おわッ……大丈夫か!?」

【ケンカミコシ】は即座に中断され、『上半身裸の青年』が慌てた様子で介抱にに向かう。

「ああ……お花畑で曾婆ちゃんが……俺にもっと生きろと囁いている……」
「大丈夫そうだけど、ダメそうだな。 頭だ、頭がダメだ!」

どうやら頭から落下したようだ。
大事が無いと良いのだけど。

「お客様の中に【叩けば治る】所持の方はおりませんかぬー?」
「え、この期に及んでまだ叩かれるの? 俺。 死人に鞭を打つのは止めて!」

まあ、あのくらいツッコめるのなら大丈夫かな?


□夕の部

日も傾き、会場では食事や飲み物が振る舞われ始める。
見渡せば目に入ってくるのは鮮やかな色彩。
大きな木を中心にして張られた様々な模様の飾り布。
色とりどりの花の輪飾り。
テーブルに並ぶ、料理や飲み物。
そして、参加者達の衣装。
皆、用意された料理を立食だったり、地面に座り込んだりと思い思いの形で楽しんでいる。
気心の知れた友人と、久しぶりに会った旧友と、そして新しい出会いと共に穏やかに流れる刻を過ごす。
大きな木から少し離れた、所にいくつか丸テーブルが並んでいる。
どの卓も誰かしら座っており、空いているテーブルは残ってはいなかった。
まあ、丸々空いているテーブルが無いのであって、所々椅子は空いている。
折角なので相席と洒落込むことにしよう。
そのテーブルには二つの料理が置かれていた。
茸がたっぷりと入ったトルティーリャ、そしてもう一つの皿には塩漬けされたニシンにサワークリームが添えられている。
茸側に座っているのは、赤いベストに白いブラウス、スキンヘッドで目つきはやや鋭く、威圧感があるが恰幅の良い紳士といった印象の男性。
傍らには、帽子を掛けた杖が立て掛けてある。
ニシン側の男性については、人型の猫と表現するのがイメージしやすいだろうか。
紺のジャケットにハーフパンツ、丸い眼鏡と身に纏った雰囲気は知的な紳士といった様相。
赤い飾り紐が巻かれた帽子を乗せた、赤い表紙の本が更に知的さを演出している。
小さく、頭を下げて双方に相席を願い出ると快い承諾が返ってくる。
少し話してみると、二人ともタイプは違えど穏やかな紳士である事が分かる。
が、ある話題を振ったところ和やかな雰囲気が一変することとなる。
何を食べるかまだ決まっていなかったので、二人の料理の感想を聞いたのだ。

「ふんわりと焼き上がった卵にエリンギのしっかりとした歯ごたえ、そして口に広がるシメジの風味。 まだ食べるものが決まっていないのなら、此方をおすすめしよう」
「いや、それなら此方の料理も捨てがたいね。 しっかりと漬けられたニシンの塩辛さに添えられたサワークリームの酸味が実に爽やかだ。 これこそ、パーフェクトハーモニー、味の完全調和だ」

一拍、緊迫した空気が流れた後、更に料理評論家のような言葉の応酬が繰り広げられる。
そういえば、紳士というものは普段は物腰穏やかでも、自分のスタイルを貫くためには衝突も辞さない業の深い生き物だ、と聞いたことがある(注.6)
いつのまにか、目の前の料理の話から茸と魚の話しにシフトしているし。
お腹も空いてきたし、どうしたものかと考えていると視界の隅に黄色の毛並みが飛び込んでくる。
それは、テンだった。
テーブルの上、鼻をひくひくと動かしながら皿へと顔を近づける。
料理の匂いに誘われて、どこからかやってきたのだろう。
その闖入者に対して紳士二人は笑顔で料理の乗った皿を差し出す。
その笑顔は、何というか実に恐ろしいものだった(注.7)
どうやら、この『黄色い毛並みのテン』を判定者にすることに決まったらしい。
『黄色い毛並みのテン』が茸料理の方へ顔を近づけると、反対側から背筋が凍るような冷気が発せられる(注.8)
敏感にその気配を察知して、魚料理の方へ切り替えると今度は反対側よりどす黒いオーラがにじみ出てくる(注.9)
どちらも選べない。どちらかを選んでしまうと海の藻屑となってしまうか臓物をぶちまけられてしまう(注.10)
進退窮まった、その時。二人の少女が此方のテーブルへと近づいてくる。
いつの間にか、テーブルを離れていたのか彼女は右手にパフェを持っている。
そして、連れ添うもう一人の少女も同じくパフェを持っていた。
花柄の鮮やかなエプロンに丈の長いスカート。長い白色の髪は沈み掛けた陽の光を反射して煌めいている。耳が長いのでエルフだろうか。
デザートエリアにて彼女にはめずらしく、意気投合したのだそうだ(注.11)
『黄色い毛並みのテン』が彼女へと大きく反応する。
別に彼女に反応したわけでは無いようだ。
彼女の左手の皿、その上に乗っている物。

「おにくなのだ~っ!」

突然、皿へと飛びかかり、その上にあるソーセージに齧り付く。
その表情はとても幸せそうだ。
と、両隣から笑い声が漏れる。
どうやら、厄介事は解決したようだ。
折角だし、両方の料理を少しずつ食べる事にしよう。

「レク……お行儀悪い。 おしおき……」

『黄色い毛並みのテン』は飼い主らしき少女に、遙か彼方へ投げ飛ばされていた(注.12)


□夜の部

陽もすっかりと沈み、宴も終わりが近づく。
皿の重なる、乾いた音が良く響く。
焚き火を囲みまだ酒盛りを続けるものもいれば、片付けを始めるものも居る。
何にせよ、ここに居るものは皆、明日になれば探索者に戻る。
財宝を争い奪い合う事になるものもこの中にはいるかもしれない。
それでも、今はまだこの休息の一時を楽しんでいたい。
そんな事を思っているかもしれない。
なんて事を思っていると、夜の静寂に消えてしまいそうな小さな呟きが耳に入ってくる。

「終わってしまいましたね」

黒を基調とした帽子と衣服。様々な模様が刺繍されている。
傍らには、角の生えた馬……のような姿をした動物が座っていた。

「ええ、終わりましたね」

呟きに、呟きが返ってくる。
赤い上着に、腰には鳥の羽。大きな布を羽織るように肩に掛けている。
そして、そして獣ような灰色の毛並みの足。尻尾には赤い飾り布。
焚き火の赤い灯りに照らし出されるその表情に、寂しさも清々しさもなかった。
あるのはただ、薪の爆ぜる音と穏やかに流れ去る時間だけだった。

ふと、一人の少女が目にとまる。
白いエプロンに丈の長いスカート、ピンク色のスカーフが風に軽くたなびく。
手にはスケッチブックと筆を。
流れる時を切り取り、褪せていく色を紙へと記録する。
そういえば、パレードの時や宴の時にも描いていたような気がする。

「色、を、残しているのです!」

顔を上げずに、『描く少女』は言う。

「今日一日、わたしたちを楽しませてくれた色たちを忘れないために!」

最後に紙の上に、赤を乗せ、『描く少女』はようやくこちらへと顔を向ける。
それは、こちらまで同じ顔をしてしまうような(注.13)笑顔だった。

今日は懐かしい思い出に変わり、新しい今日がやってくる。
そうやって私達はこの島で生きていく。
いつか、この島で過ごす日々全てが思い出に変わるその時まで。



注.1
2メートルはゆうにありそうだ。

注.2
本当に花が咲いたわけではない。

注.3
実際は二拍ほど置いて。

注.4
つい先日、再会を約束して別れたばかりな気がする。

注.5
あれが噂のPKというものだろうか。

注.6
おばあちゃんが言ってた!

注.7
土下座して、全財産差し出すレベル。

注.8
気のせい。

注.9
多分、気のせい。

注.10
気のせいだってば!

注.11
会話はほとんどなかったそうだが。

注.12
必殺技らしい。投げる行為が、ではなく、投げられた『黄色い毛並みのテン』が。

注.13
本当に同じ顔になったわけではない。

※今回の日記は民族衣装イベント「carne vale!」参加者の
ENo.159 グリス・キアロ さん
ENo.183 ウーゴ・ソル さん
ENo.486 おまわりさん
ENo.498 黒ノ夢魔 さん
ENo.571 東藤 タカシ さん
ENo.608 レク さん
ENo.609 レシル=レイン さん
ENo.864 式村 衛 さん
ENo.1015 鷹追い さん
ENo.1272 アーチエント さん
ENo.2082 西風を連れて歩むもの さん

にご出演頂きました。ありがとう御座います!

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