ゆらゆらとたゆたう

練習試合でミスったりチキレ失敗したりで色々申し訳なさ過ぎた日記。
練習試合の補完内容になります。


■由良木ゆら観察日記35日目　～逃亡象と雨のビート～

昨日から降り続く雨。
その雫に身を濡らしながら、彼女は立っていた。
薄暗い雨空、俯いた顔、濡れた髪。
覆い隠された表情は窺うことが出来ない。

彼女の前に現れたのは、一人の青年。
金髪に、左右色違いの眼鏡が特徴的な青年だ。
この島ではちょっとした有名人……指名手配犯、あおいろのばけもの。
東藤タカシ、彼女が探し求めていた相手だ。

「え……！？　ゆ、ゆらちゃん……！？」

彼が調子外れな声をあげる。
どうやら、意外な人物と遭遇してしまったようだ。
彼女がこんなに能動的な行動を取るとは思っていなかったので、私も驚いていた所である。
彼女の手の中にある一枚の紙。
ぎゅっと、握り締められたそれが彼に投げつけられる。
その紙には、彼が行ったとされる凶状が列挙されていた。
『指名手配書』。
最初に返ってくるのは弁明の言葉。
と、思ったが……その予想通りの言葉は途中で途切れ、最後まで紡がれることはなかった。

「ごめん、ゆらちゃん……　今は何も話せないんだ」

何も話せない、その一言に反応して彼女が顔を上げる。
表情は何時もと変わらず、何も無い。
ただ、微かにその瞳の奥に揺らぐものが見えたような気がしたのは、私の気のせいだろうか。
ゆっくりと、彼の元へ彼女は近づいて行く。
ケイタイの軋む音。
握り締めた手を、何度も何度も彼の胸に叩き付ける。
雨に濡れた頬は、まるで泣いているようにも見える。


……何も知らない人間が見たら、どう思うかな。
そんなことを思いながら、私は音を立てないように移動することにした。
今日の観察はこれで十分だ。
『今は』何も話せない、と言っていたし。
しかし、彼女がこんなにも感情を表に出したのを見るのは初めてだ。
それがこういった感情であるということは、少し残念でもある。


人様の荷物を漁るのは初めてかもしれない。
指名手配犯相手なら盗みを働いても通報される事は無い。
……と、いうわけではない。
この行為は彼女に頼まれた事であり、ひいては彼の為にもなる……らしい。
まあ、誰かに見られたら弁明は出来ない気がするが。
目的は、合成を行うこと。
この辺りに居る者なら必ずといって良いほど持っている物、それからある物を作るそうだ。
まあ、詳しくは良く分からないがメモ通りに行えば恙無く完成するらしい。

1．砂のなから掘り出したシャドウバックラーを用意します。
え？　これ、一杯埋まってんの？

2．次におにくを1日スモークします。今回はスモーク済みのものが用意してあります。
こちらにスモーク済みのものが……あったよ！！

3．おにくをシャドウバックラーへ抉りこむように押すべし！押すべし！押すべし！
えっと……こう？　こう、かな？

4．そして出来上がる巨大丸太。
な　ん　で　だ　！！！

勢いでひっくり返そうとしたけど、びくともしなかった。流石、巨大丸太。
さて、作る物は作ったしそろそろ何か動きがあるかもしれないから戻っておこう。
荷物袋っぽいものに巨大丸太を押し込み……巨大丸太に荷物袋っぽいものを被せ、私は彼女達の元へ戻ることにする。
あ、昨日書いておいた手紙を添えるのを忘れずに。


水の跳ねる音。
彼女の手から滑り落ちたケイタイが鳴らした音。
落としたケイタイを拾う事無く、彼を見上げる彼女。

「……ゆらちゃん……」
「……ここまでだ、ギリキン」

二人の間に割って入ったのは、緑の肌をした少年と象。
象の長い鼻が彼を抱え上げ、自らの背中へと乗せる。
緑の肌をした少年は彼女を一瞥し、象の背中へと飛び乗った。
振動。
象が前へと走り出す。
彼女は後を追おうとするも、足をもつらせて大きな水音を立てる。
起き上がった肩が、大きく上下する。
感情の奔流に身を任せるのは、慣れない彼女には負担が大きかったようだ。
それでもその瞳は消えゆく彼をまっすぐに捉えていた。
彼の姿が見えなくなり、暫くして雨は上がる。
空はまだ厚い雲に覆われ、そこに虹が架かることはなかった。



握りつぶされた指名手配書の裏。
とある海岸へと至る地図が描かれている。


白い封筒の中。
短いメッセージとまったく同じ地図。
『もし、誰かに会いたくなったらここを訪れてみて下さい。　きっと、会えると思います。　あ、顔を見たくなったらとかでも良いです』